●ユニークな商法「先用後利」
富山十万石の二代目藩主・前田正甫の「用を先に利を後にせよ」という精神から生まれた「おきぐすりの先用後利」販売システムは、当時としてはかなり画期的な商法でした。
山河を越えて行く道中には山賊や盗賊の危険もあるでしょう。宿泊費や交通
費も馬鹿になりません。しかも、たどり着いた旅先で必ずくすりを買ってくれるという保証もありません。言葉や習慣の違いも当然あります。利益を得るために長い年月がかかり、資金の回転も困難です。
こうした悪条件だらけの中、不安や迷いを断ち切ってスタートしたのですから、しっかりとした「商いの理念」がバックボーンとしてあったに違いありません。
江戸時代から第二次世界大戦の頃まで、薬売りたちは、そのほとんどが真宗信者で、懐や行李の底に小さな仏像を納めて、全国を歩き回っていました。
「仏が照らしてくださる。見ていてくださる。聞いてくださる。決してひとりぼっちじゃない」と、心に念じることで、苦が苦にならず、死をも恐れない強い精神を作っていました。同時に、背中に仏を意識することで「仏の願いにしたがって顧客にくすりのご利益を与える。顧客は病気が治るというご利益に対して感謝の気持ちとして代金を支払う。それがくすりを与えた者に利益となって返ってくる」と考えていました。
こうした商法は、顧客との間に「互いに利を分かち合う真心と感謝の結びつき」をより強固なものにし、人間関係が永続するという効果
をもたらしました。